● イップスの原因が「失敗への恐れ」にあると理解する
「プレッシャー」と「負ける恐怖」は、とても近いものです。
プレッシャーは、「負ける恐怖」から生まれるといってもいいでしょう。
スポーツ業界のプレッシャーの最たるものに、
「イップス」があります。
イップスは、突然思い通りのプレーができなくなる症状のことです。
とくに多いのはゴルファーで、
よくイップスになって、パターを打てなくなるのです。
たとえば、このパットが入れば優勝、もしくは賞金王、
入らなければ優勝や賞金王を逃す、といったシーンで、
1メートルもないパットを外してしまうことはよくあります。
プロゴルファーであれば、
練習時なら目を瞑っても入れることができるでしょう。
ところが、優勝や賞金王のかかった大事な場面では、
負ける恐怖がわきやすいのです。
イップスは、負ける恐怖、
言葉を変えれば「失敗することへの恐れ」
からきているのかもしれません。
●一流選手ほどイップスになりやすい理由
興味深いのは、力のある人でなければ
イップスにはならない、ということです。
素人であれば、そうそうイップスになることはありません。
なぜなら、素人は負けても失うものはほとんどないため、
負ける恐怖も少なく、イップスとは無縁だからです。
一流選手ほど、プレッシャーがかかる場面が多いために、
イップスにかかりやすいと言われています。
実際、イチロー選手も、
「一流の選手が相手でなければ、プレッシャーを感じない」
といったことを話していました。
高校野球はトーナメント戦なので、負ければそこで終わりです。
ですから、普通はプレッシャーを感じやすいスポーツのはずなのですが、
イチロー選手は、そのときにもあまり緊張しなかったそうです。
そのことについて、イチロー選手本人は、
「負ける恐怖」や「失敗することへの恐れ」
を感じにくかったからではないかと、分析しています。

●「負ける恐怖」が身体の動きを止める
野球のピッチャーにも、イップスはよく起こります。
ピッチャーのイップスは、遠投のように
思いきり投げる分には関係ありません。
ところが、バッターに対して投げるときと、
一塁に牽制をするために投げるときには、
微妙なコントロールができなくなってしまいます。
ゴルフのパターは思いきり打つのではなく、
本当に軽く触るだけがいいと言われています。
その微妙な加減が必要になるとき、
身体が思い通りに動かなくなってしまうのでしょう。
結局は、 「負ける恐怖」がプレッシャーとなり、
結果に影響を与えるということです。
一方で、「別に負けてもいい」という思いがあれば、
結果も左右されにくくなっていたかもしれません。
●「がんばろう」が恐怖を増幅させる
カップまで1メートルのパターなら、
練習であれば、意志の力は1程度で済みそうです。
「外すかもしれない」
という想像力も大きくはなりません。
普通のトーナメントで、入れば優勝という場面であれば、
意志は10程度で、外すイメージは2乗をしても100ですから、
なんとかなるかもしれません。
ところが、年間賞金王、
しかも2年連続がかかっている場面となれば、
一生涯でチャンスはほとんどありませんし、
入れば歴史に名を残すほどのことです。
そこで1万程度のパワーがかかれば、
外すことへの想像力は膨大な数字になって、
身体が恐怖に取り憑かれて動けなくなってしまうことも…。
意志に対する想像が2倍ならまだしも、2乗ともなれば、
「がんばろう」「がんばろう」と思えば思うほど、
恐怖も2乗になってしまうのです。
賞金王ももちろんプレッシャーがかかる場面ですし、
オリンピックで金メダルがかかった場面でも、
「がんばって金メダルをとろう!」
という意志は、1000や1万くらいになるでしょう。
すると、
「金メダルをとれなかったら、もう日本には帰れない…」
という気持ちがふくれあがって、恐怖で身体が固まってしまいます。
そんなとき、イップスの解説でお話ししたように、
「金メダルをとれなくてもいい」
と思えれば、自然とプレッシャーを感じにくくなるのです。


